暴落のメカニズム
市場が暴落するメカニズムはまだ解明されていないが、個人的には、テクニカル的要因と、心理的要因が複雑に絡み合った結果ではないかと思われる。
テクニカル的要因としては、カスケード理論があげられる。カスケード理論とは、何らかの原因で株価が大きく下落すると、先物市場と現物市場が互いに影響しあい、売りが売りを呼ぶ展開になってゆくことをいう。簡単に言うと、1.現物市場の株価が下落⇒2.ポートフォリオ・インシュアランスを行っているファンドマネージャーが先物を売ってヘッジする⇒3.先物が現物以上に下がると裁定取引業者が現物売り、先物買いを入れ、現物株が下がる⇒4.それを見て、また先物市場にヘッジ売りが出る。ここまでのループは感情のない機械的売りである。
初めの原因は何であったにせよ、次に人間心理が暴落に拍車をかけることになる。ここに面白い事象が報告されている。1987年ブラックマンデイの直後にロバート・J・シラーが個人投資家2,000人、機関投資家1000社にアンケートを行った。回答があったのは、個人投資家605人、機関投資家284社。シラーによると、個人投資家の20.3%、機関投資家の43.1%が暴落の当日、「精神的に集中できない、手のひらに汗をかく、胸がキリキリと痛む、イライラする、脈拍が高くなた」と回答があった。これは正にパニック症状のそれと同じである。
株価の下落がストレスを引き起こし、そのストレスが急激な態度変化を誘発し、それが新たな売り注文となって市場に出てくる。これが更なる株価下落を呼び、比較的冷静だった投資家のストレスも極限に達する。ここに先に書いた機械的売りも加わり、テクニカル要因と心理要因が融合した負のフィードバックループが完成し、ストレスに耐え切れなくなった投資家が次々と出口に殺到する。まさに売りが売りを呼ぶ展開となり、大暴落が引き起こされるのである。
シラーが大暴落が起こった後に、なぜ株を売ったかを尋ねると、殆どの投資家は、合理的な理由はなく、ただ株が下がっていたから売ったと言うものであった。裏を返せば株が暴騰している時に買いたくなるのも、そこに合理的な理由はなく、売りのフィードバックループが逆に作用しているだけとも言える。