テストステロンやコルチゾールがトレードに及ぼす影響

テストステロンと投資行動


これは心理学ではなく生理学(神経経済学)の分野ですが、勝っているトレーダーはテストステロンの量が普通のひとより多いなどと話題になることがあるので、とりあげてみたいと思います。そもそもテストステロンとは何か? ということですが、これは男性ホルモンの一種で、エストロゲンやコルチゾンなどと同じステロイドホルモンのことです。テストステロンは男性ホルモンの一種ですが、女性にも存在しています。ただしその量は男性の1/10~1/15と少ない。

テストステロンの多寡は生まれつきのものですが、年齢や環境でも量が変化します。そしてテストステロンの濃度が競争や戦闘でのパフォーマンスに影響するというのは研究でも確かめられています。例えば動物界では複数のオスがボスの座を巡って日々決闘を繰り返していますが、ここでもテストステロンが影響する「勝者効果」と呼ばれるものがあります。これは戦いに勝ったオスのテストステロン濃度はさらに上昇し、敗者の濃度は減少するので、勝者は次の戦いを濃度が高くなっているテストステロンを維持したまま戦うので、勝利する可能性が高くなると言う理屈です。これを投資に置き換えるとかると、儲けている投資家のテストステロン濃度は上昇しているので、自信満々、怖いもの知らずでリスクを取りに行き、それが結果的に高パフォーマンスにつながるというわけです。

テストステロンと投資行動 テストステロンと投資行動 上記の理屈を当てはめると、トレードで儲かると投資家のテストステロン値は上昇し、それによってさらに自信を深め、リスクへの意欲が高まることになります。そして勝ちを積み重ねることでテストステロンもさらに上昇するという、テストステロンのフィードバックループが完成します。儲けている投資家は顔つき、喋り方、歩き方まで自信に満ち溢れるようになり、安月給で働いている人間はみな馬鹿に見え、まるで自分が全知全能の神にでもなったような錯覚に陥ります。しかし、どこかの時点でテストステロンの濃度が高いことがマイナスに作用する事態が発生します。動物で例えれば、喧嘩っ早く毎日戦ってばかりいれば、必ず自分より強敵が現れ殺されますし、投資家は勝ち続けることで自信過剰となり、それに比例してポジションもどんどん大きくなるので最後は儲けた額よりさらに多くの金額を失い退場する確率が高くなります。冷静に考えれば、こんなことは分かりきったことですが、テストステロンがまるで麻薬にように作用するので、一旦こういうゾーンに入ってしまうと抜け出すのは難しいということでしょう。これは投資家に限った話ではなく会社経営などでも同じだと思われます。



テストステロンがバブルを形成するという意見もあります。たしかにネットバブルの全盛期は、それこそネットと名が付けば、なんの実績もないペーパーカンパニーのような会社でも天井知らずで上昇しました。振り返るとこのネットバブルで興奮していたのは殆ど男性で、女性は比較的冷めた目で見ていました。女性はハイテク音痴でネットの将来性が分かっていないという悪口もあったが、どっちが正しかったかはその後の崩壊を見れば一目瞭然です。ネットバブルに限らず、どのバブルでも興奮状態で主導しているのは男性であることから、テストステロンが影響しているという話も、あながち嘘ではないと思われます。

コルチゾールテストステロンがバブルを形成するのとは逆に、コルチゾールというストレスホルモンが逆バブルを形成するという意見もあります。コルチゾールが脳に与える影響は、最初はテストステロンと似たように作用しますが、過度なストレスを受け高い濃度で一定すると不安感が高まったり、トラウマの形成、リスク回避行動を徹底して行う傾向が強くなることが分かっています。下落相場になるとヘッジファンドや政府が仕組んだとか、ありもしない妄想や陰謀論が必ず登場しますが、これはコルチゾールのフィードバックループで投資家の不安感が増幅された結果なのかもしれません。

さらに怖いのが過度なストレスを受けコルチゾールの量が増えると血圧や血糖値を上昇させ、免疫機能の低下をもたらすことです。そして脳の海馬のニューロンが死んでしまい最大に15%も体積が縮小すことが分かっています。(ただし、海馬はニューロンを再生できるのでストレスがなくなると元の状態に戻ることができる) テストステロンもコルチゾールも増えすぎると弊害も多くなると言えます。リーマン・ショックが起こった、2007年~2009年にかけて金融の中心地であるロンドンでは他のイギリス地域に比べ心疾患で死亡する人の割合が顕著に増えたというデータがあり、金融危機との関連が疑われています。我々も知らないあいだにホルモンの影響を受けながらトレードしているのかも知れません。




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